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福地 祐介 | 渡良瀬滑走路 Gate : 16

福地 祐介 | 渡良瀬滑走路 Gate : 16

Arrive : Taiwan Taoyuan International Airport
Date : 20 Jun. 23

海を越えて撮影に行く際も、現地のマネージャーさんとは現地の空港やホテルで待ち合わせをします。

ふとした瞬間、この上なく尊き。

 人数分のスーツケースを手元に、両親のパスポートと持ち物を確認してこれからの家族旅行を楽しみにしている人。携帯片手に、友人同士で世間話をしながらチェックインを待つ女の子2人。深夜のフライトにも関わらずしっかり髪の毛をセットしてジャケットを着ている人、もう機内で寝る準備が出来ている人。空港に着き、チェックインの列の中から周りを見渡すと、それぞれ違った旅行模様が目に留まります。
 そんな中、僕は日本を出てからこれまでというもの誰かと空港に行き、誰かと飛行機に乗るという事がほぼありません。唯一、映画祭で北欧に行った際、監督と空港で待ち合わせをしたくらいでしょうか。飛行機に乗る際、本当に隣に誰か知っている人が座っているという事が全くと言って良いほど無いのです。
 こんな風に書くと「なんて孤独な海外生活を送っているんだ」と思われてしまうかも知れません。ですが、この仕事をしていて、自分自身がこういった《ちょっと一般的な理由から脱線している状態》の当事者になった時こそ、とても客観的に皆さんがどういう気持ちで、どういう目的でその特別な日を迎えているのかという事を実感、想像する事ができるのです。
 そういった一つ一つの瞬間の蓄積は、その後に出会う役へのアプローチに際して自分の中で何より説得力のある強力且つ主要なヒントになります。
 それぞれの方の表情を目にしながら、「今列に並んでいる人にとって、もしかしたらこれからの数日が一生忘れられない旅の思い出になるのかも知れないんだなぁ」
 そんな想いを巡らせる瞬間、僕は俳優として、ちょっぴり成長しているのかも知れません。

著者 : ふくち ゆうすけ
1984年足利市生まれ。俳優。
20代を東京、欧米で過ごした後、独学で中国語を修得。現在台湾、シンガポール、中国、日本を拠点に活動、その各国に主演作品を有している。近年、自身の水彩画やエッセイなどの創作が注目を集め、書籍出版や連載、講演等の依頼へも積極的に参加している。
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