ウディ・ガスリー・ストーリー
(ヘンリエッタ・ユーチェンコウ=著 三井徹=訳 ブロンズ社)
「お前は欲がないから、心配だよ」
40年くらい前、30歳を過ぎて新しい仕事を立ち上げようとしたとき、母に言われた。それ以前、20歳のころから当時の若者の間で起こったフォークブーム。その真っただ中に身を投じ、自らつくったフォーク団体にはあっという間に200人くらいの会員が集まった。我が家には毎日10人近くの若者が押し寄せ、中には勝手に居候を決め込んだ者まで。母は仕事が終わるとそんな連中にお茶を入れたり、時には食事をつくってくれたりしていた。そのころの小生といえば、定職につかない代わりに、物(金)欲もなくて、生活するのに最低限必要なものがあればそれで十分だった。
予言は外れてはいなかったと思う。母は亡くなるまで小生のことが気掛かりだったに違いない。それでもここまで仕事を続けてこられたのはカミさん(妻)のおかげ、別の道を歩んでいれば、とんでもない苦労は掛けなかったかもしれない。
当然だが、40年の間には幾度となくめげたり萎えたこともあった。そんなときいつも手に取ったのが、アメリカの第2の国歌と言われた『わが祖国』をつくったプロテストソング(※)の先駆者ウディ・ガスリーの伝記『ウディ・ガスリー・ストーリー』だった。ウディは7年前にノーベル文学賞を受賞したボブ・ディランが多大な影響を受けた人として知られている。この本のあとがきに、ディランがつくった『ウディに捧げる歌』が記されていて、時に、この詩の最後のフレーズに涙するのである。~ぼくがおよそ口にしたいと思いそうにない言葉は《ぼくだって辛い旅をしてきたんだ》~
リタイア後、断捨離に精を出して小さくなった本箱で、相変わらず存在感を見せている一冊だ。
(※)政治的抗議のメッセージを含む歌の総称
読者投稿/無用舎