貴重な文化財を守り、次世代へ・推薦産業遺産に向け一歩・学会誌に論文掲載・トチセン煉瓦造工場群
足利市内に残る貴重な歴史遺産・文化遺産である福居町の「トチセン煉瓦(れんが)造工場群」を守り、未来へつないでいくための新たな価値を付加しようと産業遺産学会の「推薦産業遺産」認定に向け調査研究を進める中で、新たに発見した同工場群についての資料などをもとに同社・秋草俊二社長、同特任研究員・北村隆さん、足利大学非常勤講師・福島二朗さんがまとめた論文「近代に建造された現役稼働の煉瓦造工場群の今日的意義—株式会社トチセンを事例とした史的分析および考察—」が3月下旬に発行された同学会の学会誌に掲載された。認定への大きな一歩ということで、今後2024年の同遺産申請を目指す。
現在も現役で稼働する同工場群。赤レンガ捺染工場、同サラン工場、同汽罐室が代表的な建物で、市内の観光スポットでもあり、ここ数年は数多くの映画やテレビドラマのロケ地として利用されている。
すでに文化庁の登録有形文化財、経済産業省の近代化産業遺産となっている工場群だが、取り巻く環境の変化があっても未来へつないでいこうと約3年前に秋草社長が元足利大学付属高校校長で栃木県建築士会足利支部長も務めた北村さんを招へい。会社内に研究室を設け、工場群の詳細な調査研究が始められた。
昨年3月には福島さんが加わり産業遺産推挙に向け調査を加速させた。新資料を栃木県立文書館で発見。分析することでこれまで不明だった工場群の建造年や同社の前身について明らかになった点が多く見つかった。工場建設は1921年9月11日に着手し、捺染工場は22年2月までに竣工、サラン工場と汽罐室は同年11月までに竣工していたことを確認。このほか、トチセンの前身である足利織物株式会社の設立年月日の特定、敷地整備の過程、株主数や従業員募集状況などが詳細に確認できた。
同遺産認定には同学会の学会誌に論文や紹介記事などの掲載が必要ということで、新たな発見を盛り込んだ今回の論文掲載の意味は大きい。秋草社長は「守っていくためにはどうするかという思いから協力をいただき始めた研究。今後、行政や観光協会などと連携しながら、残す努力を続けていきたい」と話していた。
論文は6月3日、名古屋産業大学で開かれる同学会の研究発表会で発表する予定。
文 原嶋
写真 えとき