行動が思うにならない毎日に始めた書籍の再読。よい本に行きついた。
『アフリカの日々』。その作者と訳者についてのハナシ。
村上春樹の『1Q84』で引用した同本の一節をふと声に出したら音感がよく興味がわいた。ロバート・レッドフォードとメリル・ストリープが主演した映画「愛と哀しみの果て」の原作本。
作家としての一面を持つデンマーク人が東アフリカにわたり、農園経営者として過ごした18年を後年、母国で振り返る。
記録の羅列ではなく、訳者あとがきに述べてあるように「なにを書かなかったか」によって読み物として成りたっている。自身の結婚や友人との別離には触れず、多彩な気候と起伏に富んだ東アフリカ大地溝帯、現地に住む人たちにフォーカスすることで紀行文としても読める。
1914年、文字の世界が開かれたばかりのアフリカ。音声による情報とゆりかごのような大地の様子を作者が文字に変換する。それを異なるカルチャーの日本人が訳す。文と節を成す単語は溶け合いよどみなく音感がいい。異世界をすっと身近に感じられる言葉も。第一部にある農園の描写。原文の「drizzling rain(霧雨)」に「篠つく雨」をあてる。大地と大気の描写を声に出して読んでみる。訳文からは空気の密度までにじむよう。言葉を探り当て並び替え差し替え推敲し…その作業をしばし想像しただけで思考が止まりました、ハイ。
英語学習目的に原文にあたるのを無駄!とあきらめた。意味を調べる作業が始終つきまとい異様に時間がかかる。途中で挫折したつん読本は相当な数になる。海外作品は翻訳本で楽しむ。だけれども商売柄、訳の質が気になる。「?」と違和感を感じると内容はそっちのけ。
作品に集中できる。いい翻訳本に出合う幸せ。
アフリカの日々 河出書房新社