〜 「今日」というもの。 〜
「今日」というものを感じられない。
チンタオのラ・ボヤージュ・ホテルの14階。
窓から見えるいつもの河の景色は朝の雨で白くぼんやりしている。
いつもは晴れ晴れとしていて朝カーテンを開けると青空の光が勢いよく部屋のシーツを解き放ってくれる。
今日はその全てが厚いグレーの雲の中だ。
敢えて、電気を点けずに雨雲の朝に部屋の照明を預けてみる。
敢えて、若干湿度の高さを感じる肌の上の熱気をそのままにクーラーを点けないでおく。
テーブルの上のノートもよく見えない。
これから始まる1日の心はまだ早い朝のよどみのまま。
音楽を点ける気にもならないし、雨の中を対岸へ行き交う車のぼんやりとしたヘッドライトも14階からはゆっくりだ。
そんな中、僕は感じた。
「これが、本当の「今日」なんだな。」
「今日」のグレーさに電気を点けてしまったら、快適な温度にクーラーを点けてしまったら、雰囲気を変えるために音楽を点けてしまったら、本当のその「今日」はこの部屋から逃げていってしまっただろう。
僕ら人間が快適に過ごすという事は、もしかしたら本来は一度として同じ事はない変化に満ちた毎日を、自分自身で同じ様子の型にはめていってしまっているのかも知れないなぁ。
“毎日が過ぎるのは本当に早いですね。”
一度、足元にある「今日」に停まってみると、実は、そんな事ないのかも知れない。
ふくち ゆうすけ
1984年足利市生まれ。俳優。
20代を東京、欧米で過ごした後、独学で中国語を修得。現在台湾、シンガポール、中国、日本を拠点に活動、その各国に主演作品を有している。近年、自身の水彩画やエッセイなどの創作が注目を集め、書籍出版や連載、講演等の依頼へも積極的に参加している。
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