となりの「し、いわく」。
「 子曰く、」
日本で育った方であれば、学校の教科書等で一度は眼にした事のあるフレーズだと思います。
孔子の『論語』の中に出てくる言葉です。
僕自身、国語の時間でこの『論語』に触れた事を覚えています。
しかしながら、それから十年以上の時を経た今、僕のライフスタイルとここまで近いものになるとは想像もしていませんでした。
僕はアクターとして日本を離れてもう随分になりますが、ふと、『論語』の日本語訳をもう一度読んでみたいという思いに駆られた時期があり、一時帰国中に日本で本を買って読んでいた期間がありました。
教科書で見ていた時とは違い、中華圏を拠点とし中国語も話せる自分で丸々一冊の『論語』を読んでみるととても新鮮な体験で、「こんなに良い事を説いていたのか。」と今の自分に活かせる部分にも多く出会う結果となりました。
そんな中、再度足利に帰って来た際に驚くべき発見がありました。
自転車で大日様の近くを通っていた時の事です。
信号待ちをしていた僕がふと目線を落とした先に目に入ったのが、通り沿いに点々と置かれている灯籠の側面に印された”中国語の原文のままで書かれた『論語』の一句”でした。
足利学校で教えていたものが儒教であった事は育って来た過程でそれとなく知っていましたが、実際に校門の近くに孔子様の像があったり、ましてや通り沿いの灯籠に中国語の原文で『論語』が刻まれていたりと、巡り巡って後に興味を持った事がきっかけで、ここまで自分のルーツである故郷と『論語』が密接に結びついているという偶然に気づいた事にとてもびっくりしました。
そして今回、もう一つの偶然が重なりました。
僕が約4ヶ月間撮影で滞在していた中国山東省が、孔子様の故郷がある土地だったのです。
調べてみると曲阜(きょくふ)という出生地には、今でも孔廟(孔子を祭祀する廟所)、孔府(孔廟孔子の子孫が代々暮らした邸宅)、孔林(孔子一族のお墓)があるとこの事で、行って来ましたよ、撮影のない日に青島駅から高速鉄道で約3、4時間をかけてこの3孔と呼ばれる孔子様の縁の地へと、直接足を運んできました。
実際にその地へ降り立つと、足利から遥か遠くに位置するこの地が、自分の生まれた故郷と深く結びついているという事実に、歴史の不思議さと何とも言えないソワソワを覚えました。
1日限り、日帰りでの限られた時間ではありましたが、最後に孔子様のお墓をお参りして青島へ戻りました。
その際、お墓の真横にある販売所で、初めて中国語原文版の本場の『論語』上下巻を購入しました。
その販売所でしか押してもらえない「孔林で購入」という印鑑入りの特別な一冊です。
仕事が落ち着いたら、今度はこの中国語版を”1日1項目”づつという感じで、読み進めてみようと思っています。
東武足利市駅、デイリーヤマザキ横のお土産屋さんに、足利学校から出ている薄い『論語』の抜粋版が売っています。
日本語訳のもので、とても短くまとめられているコンパクトな冊子なので、遠方の撮影の際にもスーツケースに忍ばせて撮影当日の朝にパラパラと開いたりしています。
本当に、結構良いヒントをもらえるんです。
仕事の面でも日常の面でも。
もし興味のある読者の方がいらっしゃいましたら、是非『論語』の入り口として手元に置くのにとてもおすすめです。
時を経て読み返してみるだけでも、結構面白いですよ。
ふくち ゆうすけ
1984年足利市生まれ。俳優。
20代を東京、欧米で過ごした後、独学で中国語を修得。現在台湾、シンガポール、中国、日本を拠点に活動、その各国に主演作品を有している。近年、自身の水彩画やエッセイなどの創作が注目を集め、書籍出版や連載、講演等の依頼へも積極的に参加している。
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