「唐辛子とごま油」
どこの国を旅しても、食材市場と骨董市には飽きることがない。昨年のソウル滞在中も、毎日京東市場に足を運んだ。京東市場は生薬を扱う韓方市場と調味料や生鮮食品を扱う在来市場が混在している。とにかく広く、迷路のよう。
共に旅した友人は、以前この市場で手に入れた粉唐辛子とごま油が絶品だったとのこと。二人で一時間半以上も入り組んだ路地を歩き廻ったがこの2軒の専門店に行き当たらなかった。それなら一旦腹ごしらえ、と彼女の勧める食堂に向かうが、こちらも見つからず。やっとのことで地下へ続く間口1メートルほどの薄暗い階段を探し当てる。天井の低い地下フロアには魚売り場が広がり、エイが売られている店の奥にその食堂はひっそり営業していた。
満腹になったところで、気を取り直し、また地上の市場を探し歩く。友人が店の看板をスマホで撮っていたのを思い出し、その画像を市場の方々に見せ、案内してもらった。唐辛子屋の店先では高級唐辛子の生産地である英陽産のものが山積みになっていた。光に透かすと綺麗な赤で、かなり大ぶり。ごま油屋では大きな機械で搾りたてをその場で瓶詰めしてくれる。どちらもびっくりするほど香り高い。
私は方向感覚があるほうなので、店の場所を書き留めたりはしなかった。今度ソウルに行ったときにも買いに行きたいが、果たして辿り着けるのか。今となっては記憶も曖昧でちょっと自信がなくなってきた。
塩見 奈々江
しおみ ななえ/1983年東京都渋谷区生まれ。幼児期をイタリア、イギリスで過ごし大学進学でフィレンツェに渡り10年間暮らす。 現在は足利市の里山と東京の2拠点で暮らしながら、展示会やネットなどでヨーロッパの古道具を扱うBAGATTOを営む。
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