「かき菜」
本誌をお読みいただいている方ならかき菜を知らない人はいないと推測する。私を含め、足利在住の者にとっては珍しくもない春の野菜。おそらくピンポイントで北関東にしかないこともご存知でしょう。
私がかき菜を初めて食べたのはもちろん足利に引っ越してきてから。近所の方々からご自身で育てたものを立て続けにいただいた。ほろ苦さと甘さがあって食べやすく、炒めもの、お浸し、白和などにした。
かき菜を食べるようになってイタリアにもチーマディラーパ(カブの先っぽ)という、味のよく似た野菜があったことを思い出した。両方ともアブラナ科の植物だが学名は若干異なるので同じ品種ではなさそう。イタリアでは広く食されていて各地で名前が変わる。私が暮らしていたトスカーナではラピーニと呼ばれていた。ブーツの形をしたイタリア半島の踵の部分にあるプーリア州の代表的な野菜で、オレッキェッテ(小さな耳)という形が耳たぶに似たパスタと和えた郷土料理が有名だ。
昨年は伸びすぎちゃった、と花のついたかき菜をいただいた。さっと湯掻いて食べてみたら、花も柔らかく美味しかった。最近では牡蠣とかき菜、菊芋を入れたグラタンかドリアが気に入っている。かき菜は様々な調理法で楽しめる野菜で、きっともっと美味しい食べ方もあるはず。まだまだ冒険できる野菜の一つである。
塩見 奈々江
しおみ ななえ/1983年東京都渋谷区生まれ。幼児期をイタリア、イギリスで過ごし大学進学でフィレンツェに渡り10年間暮らす。 現在は足利市の里山と東京の2拠点で暮らしながら、展示会やネットなどでヨーロッパの古道具を扱うBAGATTOを営む。
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