「山菜」
昨年の春、私の手元に突然小包が届いた。なんだろう、と思いながら箱を開けてみると、丁寧に山菜が収められていた。送り主は前橋に住む切り絵作家の友人だった。彼女の実家は尾瀬の片品村で、どうやら帰省したときに山で採ってきたらしい。
中に収められていたのは山うど、行者にんにく、せり、蕨、みつば、葉わさび。春の恵みがぎゅっと一箱に詰められ、心が躍る。ひとつひとつが束ねてあり、手書きの札が付いていた。もう一つキュンとなったのが、彼女からの手描きイラスト入りの手紙。行者にんにくはサッと卵と炒める、せりとみつばは鳥汁と合う、など手紙というよりは、彼女おすすめの山菜の美味しい食べ方が細かく描かれたレシピ集。最後に我が家の飼い犬、ウーゴのイラストが添えられていた。
どれも美味しくいただいたが、衝撃だったのが蕨。初めて食べた蕨のたたきはご飯が何杯でも食べられてしまう。アクを抜いた蕨(新鮮だったので水に浸しただけ)を包丁で細かくたたいて、粘りが出てきたら熱々のご飯に乗せて、卵黄をかけ、醤油を垂らした。味噌や生姜などを入れてもいいらしい。まさか蕨がこんなにトロトロになるとは!
我が家も山が近い、きっと山菜は自生しているはず。実際に近所の人は毎年せりを採って楽しんでいる。だが、私は見つけたことがない。今年の春は、もっと下を向いて歩いたほうがよさそうだ。
塩見 奈々江
しおみ ななえ/1983年東京都渋谷区生まれ。幼児期をイタリア、イギリスで過ごし大学進学でフィレンツェに渡り10年間暮らす。 現在は足利市の里山と東京の2拠点で暮らしながら、展示会やネットなどでヨーロッパの古道具を扱うBAGATTOを営む。
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