「梅酒」
「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」私は間違いなく後者。家の西側に成長しすぎた背の高い梅の木がある。こんな伸びきった木から梅を収穫するにはハシゴをかけないと届かない。
10年ほど前、移り住んできた時には残された荷物の片付けに追われた。整理はされていたが、なにせ明治期からずっと人が住んできたので、残置物は多かった。ほとんどは処分したが、台所の棚の上に置かれていた梅酒の入った蓋付きガラス瓶は残した。底に溜まった飴色になった小さな梅はおそらく庭の梅の木のもの。最後に住んでいた90歳を過ぎたおばあさんが漬けたものと想像する。
庭の梅は梅干しを作るには小さすぎるので、毎年梅酒を仕込む。木についている状態である程度熟させるが、うっかりすると大半は落ちてしまうので、そのタイミングが難しい。焼酎、ブランデーやラムなどに毎年種類を変えて楽しんでいて、今年はロンドンヒルというジンに漬けてみようと思っている。つられてガラスの瓶も自然に増えていった。密閉度の高い新しいものもあるが、古道具屋や骨董市で買った古いものもある。もちろん家にあったあのガラスの瓶も使っている。
近所の家の梅の木を見ても、ここまで伸びてしまっている木はない。どういう形に切り詰めていくか、毎年考えてもわからないまま剪定の時期が過ぎてしまう。不恰好にもしたくないので、今年こそは植木屋さんに相談しようと思っている。
塩見 奈々江
しおみ ななえ/1983年東京都渋谷区生まれ。幼児期をイタリア、イギリスで過ごし大学進学でフィレンツェに渡り10年間暮らす。 現在は足利市の里山と東京の2拠点で暮らしながら、展示会やネットなどでヨーロッパの古道具を扱うBAGATTOを営む。
Website
instagram